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青森地方裁判所 昭和28年(行)41号 判決 1955年6月06日

原告 山谷勇蔵

被告 越水村農業委員会

主文

被告が別紙目録記載の土地について昭和二十二年十月三十一日定めた農地売渡計画は無効であることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、原告は主文同旨の判決を求め、予備的に主文掲記の農地売渡計画の取消を求め、その請求の原因として次のとおり主張した。

一、本件土地は山谷藤雄の所有であつたが、原告は昭和十五年以来、同人よりこれを借受け耕作してきたところ、被告はこれに対し昭和二十二年十月三十一日旧自作農創設特別措置法(以下単に自創法と称す。)第三条第一項第一号にもとずく農地買収計画、並に、売渡の相手方を山谷きみゑとする農地売渡計画を定め、これに関し異議の申立、訴願の提起がないまゝ、右売渡通知書は昭和二十二年二月二十日同人に交付された。

二、しかしながら、右農地売渡計画には次のような瑕疵がある。

(一)  本件農地売渡計画に関し、被告は公告並に関係書類の縦覧の手続をとつていない。

仮りに、右公告縦覧の手続が被告主張の如く昭和二十二年十二月十一日から同月二十日までなされていたとしても、右は法定期間を一日欠いている。

(二)  本件農地をその買収の時期において賃借耕作していたのは原告であつて原告こそ売渡を受けるべき適格者であるにもかゝわらず原告を除外して全然耕作関係のない山谷きみゑを売渡の相手方とした本件農地売渡計画は違法である。もつとも原告は自創法第十七条に定める買受の申込をしなかつたが、これは故意にしなかつたのではなく、買受の機会がなかつたからである。

しかして、以上の瑕疵は本件農地売渡計画を当然無効たらしめるものであり、然らずとするも取消すべき事由に該当するからこれが無効確認乃至取消を求めるため本訴に及んだ。

第二、被告は請求棄却の判決を求め、原告主張の請求原因に対し次のとおり主張した。

一、原告主張一、につき、本件農地買収計画は自創法第三条第一項第三号にもとずいて定められたものである。その余の主張事実はこれを認める。

二、原告主張二、の各項につき、

(一)  本件農地売渡計画に関し、被告は昭和二十二年十二月十一日これを公告し、同日より同月二十日までの間関係書類を縦覧に供したものである。

かりに右の期間が法定期間を一日欠いているとしても、本件売渡計画を無効ならしめる瑕疵ではない。

(二)  被告が本件農地売渡計画を定めるに際し、本件農地の賃借人たる原告を除外して、山谷きみゑを売渡の相手方とした事実はこれを認めるが、当時原告の居住している西津軽郡地方においては、小作農の間に耕地不買運動があり、原告においても、特に本件農地の買受申込をなさなかつたので、昭和二十三年十二月八日被告に買受の申込をした山谷きみゑを適当と認め、同人に売渡すべき旨を定めたものである。

よつて原告の主張はいずれもその理由がない。

三、なお、原告の予備的請求につき、本件農地売渡計画に関し何人からも法定期間内に異議訴願はなかつたので右計画は確定している。従つてその取消を求めることはできない。

第三、証拠<省略>

理由

一、まづ本件農地が自創法にもとずいて山谷きみゑに売渡された経過につき、当事者間に争いのない事実並にその成立に争いのない乙第三、四号証の各記載によつてみると、本件農地はもと山谷藤雄の所有に属し、原告が昭和十五年以来同人より賃借して耕作し来つたところ、被告は本件農地につき昭和二十二年十月三十一日自創法第三条第一項第三項にもとずく農地買収計画を定め、同時に、売渡の相手方を山谷きみゑとし、売渡の時期を昭和二十二年十二月二日とする農地売渡計画を定めたが、右に関しいずれも異議申立のないまゝ、右売渡通知書は昭和二十三年二月二十日山谷きみゑに交付されたことが認められる。

二、よつて原告の主張する違法原因について判断する。

(一)  本件農地の売渡手続においてその計画の公告及び関係書類の縦覧がなされなかつたとの主張についてみるに、その成立に争いのない乙第五号証の一、二の記載並に証人須藤勝夫の証言によれば、被告は昭和二十二年十二月十一日右計画を公告し、同日より同月二十日までの間、関係書類を縦覧に供したことが認められ、これを覆えすに足りる証拠はない。けれども、右公告縦覧手続は十日の法定期間を一日欠くことは計数上明かであり、この点においてもすでに本件農地売渡計画には重大な瑕疵があるといわなければならない。

(二)  のみならず、本件売渡計画には次のような看過できない瑕疵がある。

(イ)  原告は山谷藤雄所有農地以外の小作農地については、いずれも自創法にもとずき、買受の申込をなして売渡を受けた所謂精農であり、本件農地についても耕作を続けるつもりで自創法にもとずく買受の申込をなすため、再々被告に対しその買収の有無を問合せたにかゝわらず、被告は言を構えてこれに対し回答せず、(証人菊池粕松、同菊池伝行の各証言、原告本人尋問の結果による。但し証人須藤勝夫の証言中右認定に反する部分は信用し難い。)

(ロ)  かように、被告は山谷藤雄所有の小作地については、特にその買収手続をなすことを渋り、容易にその計画を定めず、県当局の指示により漸くその運びに至つたものであるが、(証人菊池伝行の証言。)

(ハ)  山谷きみゑが買受申込をしたのが昭和二十二年十二月八日であるのに、本件農地売渡計画が定められたのはそれより一ケ月以上前である同年十月三十一日であり、かつその売渡期日は同年十二月二日と定められていたのであることも明らかであり、(証人須藤勝夫の証言によつて成立が認められる乙第六号証の記載による。)

(ニ)  しかも、この間被告は本件農地売渡計画を定めるに際しその耕作者が誰であるかについてはなんら調査せず、(証人須藤勝夫の証言による。但し、前記信用しない部分を除く。)もともと本件農地の旧所有者筋に当る山谷きみゑを売渡の相手方と定めたことが認められ、(証人菊池粕松の証言による。)

(ホ)  それであるからこそ被告は本件農地に関する買収並に売渡手続が完了した後、昭和二十四年七月十五日本件農地の大部分につき、原告と山谷きみゑとの間を斡旋して本件農地の所有権は山谷きみゑにその耕作権は原告に与え、よつて被告の売渡計画の不手際を蔽わんとした形跡が認められる。(その方式、趣旨により真正に成立したものと認められる乙第二号証の記載による。)

以上の事実を綜合するときは、被告は山谷きみゑと事前に連絡のうえ、本件農地を同人に売渡すべく、本件農地の第一順位の売渡の相手方である原告において買受申込の意のあることを充分に承知しながら、故意にその機会を与えず、かえつて、買収の時期における耕作者たる原告が買受の申込をしないとの一事をとらえて、これを元の所有者筋に当る山谷きみゑに対し売渡すべく画策して、計画を定めたことが認められ、これを左右するに足りる証拠は存しない。

三、果して然らば、被告は本件農地の売渡計画を定めるに際し、その公告並に関係書類の縦覧につき法定期間を一日欠如しているのみでなく、故意に本件農地を昭和十五年以来賃借耕作して現在に及ぶ(この点については当事者間に争いがない。)精農である原告をしてその買受申込の機会を失わしめたものというべく、かくの如きは健全な自作農を創設せんとする法の趣旨を全くじゆうりんする重大かつ明白な瑕疵といわなければならないから、本件農地売渡計画は当然無効の行政処分たるを免れない。よつて原告の請求はこれを正当として認容すべく、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 工藤健作 中田早苗 田倉整)

(目録省略)

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